「ずっと好きだったのに、両思いになった瞬間なぜか気持ち悪くなった」「デート中のちょっとした行動を見て急に冷めた」。
そんな経験を「蛙化現象」と呼ぶことがあります。
ただし、ここで注意したいのが、SNSで使われる「蛙化」と心理学研究で扱われてきた「蛙化現象」は、同じとは限らないことです。
私は大学院で心理学を学び、臨床心理士・公認心理師の資格を取得しました。
その立場から見ると「蛙化=自己肯定感が低いから」といった説明には少し注意が必要だと感じます。
この記事では、蛙化現象の本来の意味とネット上での意味を分けたうえで、「なぜ起きるのか」を心理学研究から解説します。
蛙化現象とは?本来の意味を知ろう
蛙化現象の本来の意味は、簡単にいうと、「好きだった人から好意を向けられた途端、その人に嫌悪感を抱くこと」です。
日本の心理学研究では、藤澤(2004)が「自分が一方的に好意を持っていた相手も自分に好意を持っていると分かったことをきっかけに、生理的な嫌悪感を持つ現象」として扱っています。
つまり、「好きな人が鼻毛を出していて冷めた」という話とは、本来は少し違います。
ポイントは「相手から好意を向けられたこと」そのものが感情の変化のきっかけになっていることです。
SNSの「蛙化」は意味がかなり広がっている
一方、現在のネット上では意味が広がっています。
たとえば、
「店員さんへの態度を見て冷めた」
「食べ方を見て冷めた」
「改札でモタモタしていて冷めた」
「デート中の服装を見て冷めた」
こうした「好きだった人の行動を見て急に幻滅すること」まで蛙化と呼ばれるようになりました。
2023年には「蛙化現象」がZ世代の上半期トレンドランキング「流行った言葉」で1位になるなど、心理学の研究用語というよりネット俗語として広く知られるようになりました。
そのため、現在の「蛙化」には少なくとも、
①好意を返されたことをきっかけに嫌悪する、本来の蛙化現象
②相手の言動を見て幻滅する、ネット俗語としての蛙化
という2種類が混ざっていると考えた方が分かりやすいでしょう。
蛙化現象はなぜ起きる?心理学研究から考える
では、本来の意味での蛙化現象はなぜ起こるのでしょうか。
よくネットでは、
「自己肯定感が低いから」
「自分に自信がないから」
「回避型の愛着だから」
などと説明されます。
しかし、現時点の研究から一つの性格だけを原因として断定するのは難しいでしょう。
川久保・小口(2022)は20代男女110名を対象に調査を行い、蛙化現象に関係する要因を検討しました。
その結果「興味喪失」には「恋愛をする意義が分からないこと」が関連し、「今の関係を変えたくない」という心理には「恋愛への自信のなさ」や「現在の生活が充実していること」が関連していました。
興味深いのは、自尊感情については有意な影響が確認されなかったことです。
つまり「自己肯定感が低い人ほど蛙化する」と単純に説明できるわけではありません。
別の研究でも、自分や他人への信頼、対人緊張などの個人差との関連は確認されたものの、その説明力は限定的であり、「本人の性格」だけではなく相手との関係性を含めて考える必要があると指摘されています。
「冷めた理由」を4つに分けると分かりやすい
実際に「蛙化したかも」と感じたときは、すべてを同じ現象として考えないことが重要です。
たとえばマッチングアプリで気になる男性と何度かメッセージをしていた女性を考えてみましょう。
会うまでは毎日返信を楽しみにしていたのに、初デート後に男性から「本当に好き。付き合いたい」と強くアプローチされた瞬間、急に気持ち悪く感じた。
これは本来の蛙化現象に比較的近い例です。
一方、初デートで男性が店員さんに横柄な態度を取りそれを見て冷めたのであればどうでしょう。
これは「蛙化」というより相手について新しい情報を得た結果、恋愛対象としての評価が変わったと考える方が自然です。
ほかにも「付き合った途端に毎日会うことを求められて苦しくなった」なら、恋愛そのものではなく距離感が合っていない可能性があります。
「追いかけている間は楽しかったけれど、付き合ったら興味がなくなった」なら、相手本人より「片思いをしている状態」に魅力を感じていた可能性もあります。
大切なのは全部まとめて「私は蛙化する人なんだ」と性格の問題にしないことです。
蛙化したらすぐ別れるべき?
蛙化したからといって、必ず恋愛を続けなければならないわけでも、逆にすぐ別れなければならないわけでもありません。
特に婚活やマッチングアプリでは、短期間で交際を判断しようとして、心理的な距離が急激に縮まることがあります。
研究でも、蛙化経験者の自由記述には「心理的な距離が自分の意図しない形で急接近して戸惑った」という内容が見られます。
嫌悪感が出た自分を責めるより「自分にとって心地よい関係の進み方はどのくらいなのか」を知る材料にする方が、次の恋愛にも役立ちます。
蛙化現象は「性格が悪い」で片付けない
蛙化された側からすると「あんなに好きと言っていたのに」と傷つくこともあるでしょう。
一方、蛙化した本人も混乱します。
大学生を対象とした研究では蛙化経験者に自責や「周囲から理解されない」という困難が確認されています。
だからこそ「蛙化する女は面倒」「蛙化する男は恋愛に向いていない」のように人格の問題にしてしまうのはおすすめできません。
もちろん、相手を傷つけてよいという意味でもありません。
気持ちが変わることと、その後どのように相手に接するかは別の問題です。
恋愛感情そのものは自由でも、相手への伝え方には配慮する。この2つを分けて考えることが大切です。
まとめ|蛙化した自分を責める前に「何が嫌だったか」を考えよう
「蛙化現象」という言葉は便利ですが、現在は意味がかなり広がっています。
心理学研究で扱われてきた蛙化現象は、基本的に「好きだった相手から好意を返されたことをきっかけに、生理的な嫌悪感が生じる現象」です。
一方、SNSでは「相手のちょっとした言動を見て冷めた」という意味でも使われます。
そして蛙化現象の原因についても、「自己肯定感が低いから」「愛着の問題だから」と一つの理由で説明できるほど研究は進んでいません。
もし恋愛中に突然気持ちが冷めたら、「蛙化した」で終わらせず、
私は相手の何に反応したんだろう?
と考えてみてください。
その答えには、あなたが恋愛で大切にしたい距離感や価値観が隠れているかもしれません。



コメント